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コラム・早稲田ローイング

■Vol.04 「或るアナウンサーの発声練習」

アナウンサーとボート競技。一体何の関係が。そうお思いかもしれない。

実は現在、テレビその他で活躍中のアナウンサーの中には、かつてえび茶のオールを握り、早稲田ローイングを巣立ったOBが3人いる(敬称略)。

露木茂(昭38年卒)。平成14年の早稲田ボート部百周年式典では司会を務めてくれたが、その前日は、かの小室哲哉さんの結婚披露宴の司会だったのだそうだ。

刈屋富士雄(昭58年卒)。「NHK大相撲中継の声」といえば、あの声。きっと誰もが耳に馴染ませている、凛とした語り口だ。

もう一人。
横井健吉(平12年卒)。NHK入局5年目、現在、NHK甲府で若手アナとして奮闘中。
本稿筆者が今回書きたいのは、この後輩、横井のことだ。

横井は高校時代、100mを11秒台で走るサッカー選手だったが、大学では一念発起、全くの素人からボート部に挑戦。そして4年時に全日本大学選手権・舵つきペアで準優勝まで登りつめた。それだけではない。ボート漕ぐ傍らアナウンサー目指し1年生の頃から勉強を続け、みごと初志貫徹、アナウンサーの道に入った。

平成14年11月25日。NHK甲府アナウンス室から本稿筆者にEメールが届いた。
「(その2日前の)早稲田ボート部百周年式典で配られた記念誌に出ていた『あの詩』の作者は誰ですか。望月さん、知っていたら教えて下さい。とても気になるものですから。」
横井は記念誌で初めて目にした「その詩」に心動かされるあまり、アナウンサーの基礎訓練たる毎朝20分間の発声練習で、その詩を読み上げているのだという。

その詩、題名は「すべては心次第」という。
作者は「ウォルター・D・ウィントル」確かアラバマ大学アメフト部の名監督だ(と思う)。

実は本稿筆者もその程度しか知らない。だがこの詩は平成初年のある時期、横井がまだ入部もしていなかったころ、早稲田ボート部の一部の選手間で、まるでバイブルのように愛され、テーマソングのように口ずさまれた。

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「すべては心次第」

もし負けると考えたら、負けるだろう。
もし挑戦しないと考えたら、できないだろう。
もし勝ちたかったら、しかし、
勝てると考えるな。
求めなければ、勝利は絶対につかめない。

もし負けるかもしれないと考えたら、負ける。
この世の中では、成功は人の意思から始まる。
すべては、心の持ち方次第

一回のプレーも行わずに、沢山の試合が敗れ去った。
仕事が始まる前に、沢山の臆病者が失敗した。

大きく考えたら、行動も大きくなる。
小さく考えたら、それを超えられない。
出来るし、やれると考えろ。
すべては心次第である。

もし、凌げると考えるなら、そうなる。
目標を高く持て。
栄光を得る前に、自信を持て。
人生での闘いは、すべて最強最速の人が勝つのではない。
しかし、遅かれ早かれ、
出来ると信じている人は勝利を握る。

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この詩。早稲田ボート部の誰が見つけ、部員に教え広めたのか知らない。

もちろん「すべてはカネ次第」などとうそぶき、替え歌ならぬ「替え詩」を放吟する輩もいたものだ。しかしこの詩を最も愛した選手、松本隆光(平8年卒キャプテン・現電通)は平成5年の全日本新人選手権・エイト決勝の前夜ミーティング、クルー全員にこの詩を読ませた。それが勢いを生んでか、翌日は学生王者・中央大学を撃破。早稲田ボート部に久々の全国制覇をもたらした。平成8年卒組は、その同期の結婚披露宴で、この詩を再び、新郎に向かい読み上げるのだそうだ。

早稲田ボート部に、ラグビー蹴球部の「北風」「荒ぶる」のごとき「部歌」は存在しない。けれど早稲田ボート部、一部の卒業生の間には、卒後10年近く経っても、あの天下分け目の決戦前夜の、えび茶戦士の心境に、いつでも戻れるひとつの詩がある。
これは誇ってよいことではないか。

アナウンサー・横井は言う。
「アナウンサーという仕事は、他の仕事同様、技術ではなく、ハートが大事です。
『伝えるぞ』という「心」がなければ、いくら良い声をしていようが、素晴らしい情報を持っていようが、見ている人には何も残りません。そういう意味で、今の私が日々仕事をしていて大切だと思うことが、この詩に凝縮されている。そんな気がするんです。」

横井はこの詩を知って以来、発声練習にこの詩を読み上げることで、腹の底から大きな力が湧き上がってくるのだという。

そうして研ぎ澄ました声が、全国放送の電波に乗るチャンスはすぐにやってきた。最初のメールの1ヶ月後、12月22日。番組の名は『絶対ふるさと主義!―たっぷり山梨・甲斐の自慢大集合』BS2の3時間番組、生放送。NHK甲府が“局運”賭けるこの番組で、横井が総合司会に抜擢されたのだ。「ぜひ見てください!」またメールが届いた。

BSチューナー持たぬ本稿筆者、会社施設のテレビにかじりついた。見た。総合司会の横井アナは、柳生博さん・若村麻由美さんらを相手に3時間、堂々のかけ合いを演じていた。本稿筆者がコーチの昔、戸田の合宿所の食堂で、大きな体をかがめて話す、どちらかといえば口の重い不器用な若者の姿は、画面には見当たらなかった。

横井アナは近年、ボート全日本選手権のテレビ中継にも早稲田ボート部先輩の刈屋アナと共に登場している。今年の大会中継では見ることができるだろうか。

今の横井の夢は「サッカーW杯決勝の実況を担当すること」だそうだ。
横井が「すべては心次第」で磨いた声を、全地球に響かせる。
その夢かなう日が来ることを、読者の皆さんも共に祈り、応援していただきたい。
これも、ある意味、早稲田ローイングだと思うから。

<『平成16年ボート全日本選手権』テレビ放映予定(一部変更の可能性あり)>
  平成16年6月6日(日) NHK教育 15:00〜16:00

望月 博文(もちづき ひろふみ)
1970年、大分県別府市生まれ。別府青山高校−早稲田大学卒。
大学ではボート部に所属、コックスを務める。卒業後は都内のメーカーに勤務、一貫して人事関連業務に従事するかたわら、2001年までは早稲田大学ボート部のコーチも務めた。

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