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ニュース・コラム

コラム・早稲田ローイング

■Vol.06 「日本独自のスタイルを」

わが国を覆う「スポーツの価値」の低下。
子どもたちの体力低下。部活動離れ。企業スポーツの衰退。
ここで本稿筆者が論ずるまでもないが、それにしても悔しい思いは尽きない。

だが、久しぶりに新しい希望をもらった。ここに1冊の本がある。
『Rowing For All〜指導者のためのロウイング入門』(日本ボート協会普及委員会)。
指導者に限らず、何といってもローイング、そしてワセダクラブに関わる人すべてと共有したい記述が随所にある。この場で紹介させていただきたい。

著者は現在、JOCジュニア強化コーチを務めるプロコーチ、杉藤洋志氏(北大OB)が中心の数名である。その中に早稲田ボート部出身の内田大介氏(昭54年卒)、長畑芳仁氏(昭58年卒)も加わる。杉藤氏はカナダでコーチング国家資格レベル4(ナショナルコーチ資格)を取得、国内外のボート事情に詳しいほか、執筆メンバーは常にグローバルな視野で日本のローイングを牽引する新進気鋭の顔ぶれである。

ローイングについて学ぼうとするとき、入手できる書物はごく僅かしかなく、しかも本当に知りたいことはなかなか書かれておらず、期待を裏切られ続けてきたというのが実感だったが、この本はそれを覆してくれた。またこの本の素晴らしいのは従来ありがちだったHowToに終始するものではなく「日本のローイングの将来の姿」へのビジョンが明確に打ち出され、そこを起点にすべてが書かれている点である。

本稿では日本ボート協会の協力を得て、その内容の一部を抜粋または要約しつつ見ていくことにする。

 

▼地域クラブの可能性
 「日本のローイングは、ローイングがスポーツとして発展し成功することだけでなく、ローイングに参加する人々の幸福をも目指す」とある。

 ・・・そこで求められるのは、まずローイングを楽しめること、そのための環境である。生涯スポーツとして楽しむ人だけでなく、競技スポーツとして楽しむ人も対等に共存する。更にはそれを「見る人」「支える人」をも巻き込んでいく。スポーツとしてのローイングとのあらゆる関わり方が共存し、共に楽しんでいく場である。そこでローイングにおいても地域クラブの存在が、その実現のための舞台として非常に大きな期待を担いはじめているのである。

 

▼13歳までは“ゴールデンエイジ”
 「子どもは9歳〜11歳、そこから13歳ころまでで骨格系、筋肉系、神経系は急速な発達を見せる。その間の子どもたちの運動神経細胞の結びつき、信号伝達回路の形成は非常に速く、いわゆる「即座の習得」が可能である。この間では特定のスポーツだけでなく、できるだけ多くのスポーツを経験することで多くの運動刺激を神経細胞に与え、たくさんの信号伝達回路をつくることが、能力の高い選手を生み出すための効果的なアプローチである」とある。

・・・確かにいま、ワセダクラブ・ボートスクールで漕いでいるカテゴリー1(小学校3〜4年)、カテゴリー2(小学校5〜6年)の子どもたちのローイング技術の習得の速さには、びっくり仰天する。末恐ろしくなるほどである。しかし、彼ら・彼女らにはまだまだ「他の様々なスポーツのうちの一つとしてのローイング」であることが良いのである。ここにワセダクラブの大きな可能性が開ける。ワセダクラブならば、他divのスクールとの横のつながり、行き来を活発にすることで、ローイングに限らず、より高い身体能力をもつ子ども、将来の素晴らしいアスリートを生み出す可能性を持ち得るではないか。

 

▼理想的な選手キャリアとは
 「ローイング選手として理想的なキャリアの始まりは、地域クラブ単位で多くのスポーツ活動の一環として、10代前半にローイングに触れ合う機会をもち、その楽しさと魅力を知ることである。ローイング専門のトレーニングは10代中盤〜後半からが望ましい」とある。

 ・・・ローイングを含む多くのスポーツを経験した上で、身体が出来上がってくる10代の中盤〜後半に「ローイングは楽しい」と感じる子どもが専門的トレーニングを始めればよく、それが最良なのである。ところが従来、圧倒的多数の日本のローイング選手は、高校か、大学に入学して初めてオールを握ってきた。“ゴールデンエイジ”では一瞬で出来た神経伝達回路の形成が、大学ではケタ違いに時間がかかるのである。子どもたちが今、ワセダクラブで少しでもオールに触れていることは、じつは身体が成熟してから行う何年間ものトレーニングにも匹敵しているのである。

 

▼異種競技との連携
 「ローイングは、比較的トップアスリートの年齢に到達する年齢が高い競技である。海外では、22歳まで水泳選手として活動してアジア大会の銀メダルを獲得し、翌年からローイングに転向して、4年後に世界選手権で決勝に進出した選手の例もある。ローイングは、体操・水泳など若年でピークを迎える競技の引退者が、そのセンスと体力・精神力を生かして新たなスポーツに挑戦するのに適した競技でもあると言える」とある。

 ・・・本稿筆者が知る話、神戸製鋼ラグビー部のFWの選手がトレーニングの一環と称してローイング・マシンの大会に飛び入りしたら、いきなり全国上位に食い込んだなんてことがあった。当然そこでは「ちゃんとローイングの練習を積めば、もしや・・・」という夢が生まれる。が、従来はそこで終わってしまっていたのだ。しかしワセダクラブでなら、その横のつながりで、他のスポーツでピークを過ぎた選手がローイングで彗星の如くトップに躍り出る、というのが夢物語ではなくなる。もしかするとその逆もあるかもしれない。ワセダクラブは夢の実現の舞台にできる。その可能性は充分ある。

 

▼中高年からのローイングも奨励すべき
「ローイングは生活習慣病の予防に役立つ有酸素運動的な要素が強いスポーツであり、中高年のスポーツとして非常に優れている。有酸素能力はトレーニングを始めた年齢にかかわらず向上する。中高年になって初めてオールを握ることも是非、奨励されるべきである。中高年にもローイングを楽しめる場を与え、楽しむ人の輪を広げることにも取り組むべき」とある。

・・・現在のところワセダクラブ・ボートスクールには中高年がローイングを楽しむカテゴリーは未整備であるが、中高年のスポーツとしてローイングのもつ特性には着目しておくべきだろう。今後ワセダクラブが貢献し得る大きなフィールドが、ここにまだ残っている。

 

▼ローイングを人生の一部として楽しむ人を増やす
 「ローイングというスポーツに出会ってから、その人が一生を終えるまで、その人ならではのローイングの楽しみ方がある。その人がスポーツとの関わり方を手探りし、ローイングを人生のどこに位置づけるか、どう関われば心から楽しめるのか、それを決め得るのはその人自身だけであり、コーチの役目はその手助けである。そしてコーチとしての本当の成功とは、生涯にわたってローイングを心から楽しむ個性を一人でも多く生み出すこと」とある。

 ・・・レースを目指して激しくトレーニングするだけがローイングではない。仲間との友情を求めてクラブハウスへやってくるのもローイング、独りひたすらぼーっと眺めて楽しむのもローイング、若き日の思い出を胸に資金的な援助をするのもローイングなのである。その場を提供する方法として、この本は日本における地域クラブの発展にその可能性を見出している。ワセダクラブの「すべての人々に“スポーツとともに生きる場”のチャンスを提供する」基本理念とまさに合致するではないか。考えてみれば、こうしてコラムを書いているのも本稿筆者とローイングとの関わりなのだし、それができるのもワセダクラブのおかげである。

 町の水辺にローイングのクラブハウスが並び、休日に親子が同じボートに乗って子どもに教える姿は欧米ではごく日常的に見ることができる。ある有力クラブはクラブハウスでメンバーの結婚披露パーティまでやってのけるほどだという。スポーツを人生の一部として位置づけ、楽しみ、人生を豊かにする人々を増やす。それを日本でどう実現していくか。学校・実業団スポーツとの連携を図りながら、世界に類を見ない日本独自のスタイルを生み出せたら良いのかなと思う。

 

『Rowing For All〜指導者のためのロウイング入門』
問合せ先:日本ボート協会事務局 詳細はこちら

望月 博文(もちづき ひろふみ)
1970年、大分県別府市生まれ。別府青山高校−早稲田大学卒。
大学ではボート部に所属、コックスを務める。卒業後は都内のメーカーに勤務、一貫して人事関連業務に従事するかたわら、2001年までは早稲田大学ボート部のコーチも務めた。

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