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コラム・早稲田ローイング

■Vol.08 「キャプテンは元チアリーダー」

「なぜあんなに速いの?あんな小柄な子ばっかりで」
戸田オリンピックボートコースの土手がどよめく。
今、ボート界で最も勝ち続けているチーム。早稲田ボート部・女子部のことである。

全日本大学選手権・4年連続総合優勝。全日本選手権・2年連続2種目優勝。
なぜ早稲田女子部は勝つのか。
強い選手が集まってくるからか?そう決めつけるのは違う。
今年の全日本選手権、舵手付クオドルプル(4人漕ぎスカル)の決勝。顔ぶれは社会人の強豪・明治安田生命、法政大、明治大、そして早稲田。そのなかで、えび茶のユニホームはひときわ小さかった。身長の高さや、腕脚の太さでボートの速さが決まるのなら、早稲田はこの中で最下位かもしれない。
結果は2位以下を寄せつけず、10秒以上の大差で圧勝。

艇を降りたのをみると、その彼女らの小ささ・細さに一層おどろく。私服を着て街を歩いていれば、みんな普通の女子大生だろう。
高校時代のボート優勝経験を持つものもいるが、浪人して入ってきたもの、早稲田に入るまでボートと縁がなかったものもいる。その彼女たちがなぜ、勝ち続けるのか。

平成16年・早稲田女子部主将の原愛美(4年)。
学部は第一文学部、一般入試で入学。高校時代は「チアリーディング部」。
原の出身校、都立国際高はチアリーディングの名門で、自身も全国での入賞経験あり。
しかし入学後、桜の花びら舞うキャンパスで彼女の心をつかんだのは「未経験者でも日本一になれる」という言葉。ボート部の勧誘だった。
また夢を追いかけたい。チアに熱中してきたみたいに。

チアの練習は大変だったが、演技を自分たちで創造し、それを試合で発表するクリエイティブな楽しさがあった。が、ボートは違う。シンプルな動きの淡々とした繰り返し。監督はひたすら「もっと強く(漕げ)!」と言うだけ。細身の原が悩んだのはパワー不足。体力を測るエルゴメーターの記録が伸びない。とうとう3年生の春、高校ボート経験者の下級生に早慶レガッタのレギュラーを奪われる。
試合当日、隅田川では岸に佇み、仲間たちの歓喜のガッツポーズを見守ることに。

悔しかった。落ち込んだ。泣いた。しかし、ここからが彼女の非凡さだ。
腹筋毎日300回のメニューを、1000回〜1200回に増やした。クルーの練習後、メニューにないエルゴメーター40分間漕。女子部が近寄らない重いレッグプレス・マシンとも格闘した。体重も増やそうと、ご飯は誰よりもかき込んだ。

そして最終学年。ボートの楽しさ・奥深さがようやくわかりかけてきたころ、元チアリーダーは、早稲田女子ボート部主将へと登りつめていた。
今では辛口の岩畔監督をして「艇の進みを邪魔せず、水と一体化する能力は男子部含めて部内ナンバーワン」と賞賛させる。今年は全日本大学選手権ダブルスカルで優勝。タイムは7分25秒85で、ナショナルクルーにもひけをとらない。文句なしの国内トップレベルだ。

平成16年度・U23日本代表に選ばれた熊倉美咲(3年)。
熊倉は身長163cm。最近の日本人女性としてはごく普通の体格だろう。だが中学時代、競泳(バタフライ)の国体選手として培った身体能力は突出している。
しかしここまでの彼女の道のりは、決して平坦ではなかった。

ボートを始めたのは浦和第一女子高に入ってからだ。3年時に出場した富山国体・舵手付フォアで決勝進出。しかし決勝が悪天候で中止、「決勝進出全クルー優勝」。「うれしくなかった。いつかすっきり勝ちたい」そして受験勉強、目指すは早稲田。
一浪後に合格し、晴れてボート部の門をたたいた。

しかし、である。熊倉は高校時代、シングルスカルを全く漕いだことがなかった。入部後はシングルスカルをうまく操ることができず、沈(ちん=転覆)を怖がりつつ漕ぐありさまだった。しかし一途な努力の人、熊倉はその年・1年生の夏、いきなり全日本大学選手権シングルスカルで優勝。周囲を驚嘆させる。

そのまま熊倉は同じ種目で連覇を続け、3年生の今年で3連覇。そして4年の来年「前人未踏の」シングルスカル4連覇を目指す。7月のワールドU23レガッタ(ポーランド)では堀端彩子(1年)と組んだ軽量級ダブルスカルで大健闘、日本人初の4位入賞を果たした。

小柄な彼女らの連戦連勝の原動力は何か。
そんなことが簡単に言い表せる筈もない。ただ岩畔監督は「あまり細かいことは教えない」という。だが、他チームに抜きん出るもの、それは練習量だろう。岩畔監督が課す早稲田女子部の練習メニューは、常に「男子部と同じ」。理屈は抜きである。男子部ですら音をあげる岩畔監督のメニュー。人間は誰でも、本当の「生理的限界」のずっと下に「心理的限界」を設け、そこを超えると諦めたり、倒れたりするが、本当はまだまだ動けるものだという。小さい彼女らは、練習では常にそんなゾーンでの挑戦を繰り返しているに違いない。

ある言葉を思い出した。“Mileage makes champions”
漕いだ量こそが勝者を生む。英国の名指導者、マイク・スプラクレン氏の言葉である。

ところで先日、ある席でワセダクラブ・後藤禎和事務局長からこんな言葉をもらった。
「早稲田ボート部・女子部は全員、オリンピック選手を目指すべきじゃないか」

ビールに口つける席ながら本稿筆者は震えた。ここでは表現しきれないが、後藤氏の語るその言葉には尋常でない熱が満ちていたからだ。
説明は不要か。後藤氏は早大ラグビー部「精神力増強コーチ」。アカクロ戦士に早稲田精神を注入し続け、同期の清宮監督と共に、早稲田らしいラグビーを復活させたその人である。

「国内で連戦連勝するなら、直ちに世界へ目を向けるべきだ。ワセダとはそういうチームなのだ。相手が強ければ強いほど燃える。相手が強かろうが、デカかろうが、外人だろうが、勝つ。そのために知恵を絞る。全生命を賭けて立ち向かっていく。そこにワセダというチームの本質があるはずだ」と。

素晴らしい。ワセダクラブのおかげで、種目の畑を超えて、こんな力強い励ましをもらうことができる。従来ならばありえなかったことだ。
本稿筆者が付け加えるなら、ワセダクラブにはその活動を通じ、身体能力の高い少年少女たちに“ボートを楽しむ生活”を選択肢として示してあげる使命があると思う。熊倉美咲が水泳選手からボートに転向して成功したような例がもっとあって不思議ではないし、そんな例が増えることで、日本のボートのレベルはまだまだ世界に近づけると思うからだ。

実は…今号には、早稲田ボート部・男子部の「大学日本一」観戦記もいっしょに書きたかった。今年8月29日の全日本大学選手権エイト決勝では中大、日大に次ぎ3位。舵手付フォアでは0.35秒差で惜敗、2位。しかし彼らは「3位」「2位」に満足する様子はなかった。口々に「優勝しか考えてなかった」と。夜は悔し涙で泣き明かした者もいただろう。
結果は受け止めねばならない。しかし春の早慶レガッタの敗戦後、苦しみながらも確実にレベルを上げ、大学日本一まであと一歩のところまできていたのは事実である。
男子部には、全日本と名の付くタイトルをとにかく一度、獲ってほしい。一度つかめば、堰を切ったように女子部同様の連戦連勝が始まるはず。今の早稲田男子部にはそれが出来るタレントが揃っている。

そんな早稲田ボート部の現役部員たちと、ボートを通じて大いに交流していただける機会ができた。『ワセダレガッタ』10月31日(日)戸田オリンピックボートコースにて開催。
初めてオールを握る方から競技者まで楽しめる構成だ。主に早稲田ボート部員たちの指導する「一般(ボート体験)の部」は誰でも参加可、もちろん無料。この日は清宮専務理事もオールを握るそうだ。DIV対抗レース、体育各部対抗レースなど、イベントも多彩。

この日からボートにハマってしまうかもしれませんよ。ぜひ戸田へお越しください。

※2004年10月31日(日)『ワセダレガッタでボートを漕ごう』
詳細はこちら

<早稲田女子部・平成16年度全日本選手権エイト優勝>
後列左より  山名・熊倉・原・内田・曽我
前列左より  伊佐治・藤元・阿部・堀端

望月 博文(もちづき ひろふみ)
1970年、大分県別府市生まれ。別府青山高校−早稲田大学卒。
大学ではボート部に所属、コックスを務める。卒業後は都内のメーカーに勤務、一貫して人事関連業務に従事するかたわら、2001年までは早稲田大学ボート部のコーチも務めた。

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