■Vol.19 「楽しさと真剣勝負、その共存」
第2回ワセダレガッタ。2005年11月13日(日)開催。
漕いでみるも良し。ぼーっと眺めるも良し。
穏やかな秋の日、家族そろってお弁当でも持って、気軽に戸田を訪れていただきたい。
「とにかく一度ボートに乗ってみたい」方は、とことん気軽に乗れる。
ただ、同じ水面の、すぐ目の前では、ハーバード大学エイトをはじめ、国内で見れる最高レベルのボート競技者たちが、とことん真剣勝負を繰り広げている。
単なる普及目的のイベントではない。
ボートを愛する人誰が来ても楽しめるイベントとなっている。
2004年。発想は、破天荒な思いつきから始まった。
ワセダクラブが初めて主催するボートのイベント。どんなイベントにするのがいいか。
競技者のレースだけでは初心者が入り込めず、競技の普及・地域貢献につながらない。かといって初心者だけ、普及一辺倒の市民大会では、競技者が楽しめないし、初心者もただ漕ぐだけではボートの素晴らしさはわからないはず。では競技者と初心者、両者を同時に水に浮かべるか。それではコースは混乱に陥るうえ、危険きわまりない。
いや、できる。浮かべてしまおう。
戸田コースを縦に真っ二つに区切ったらどうか。
コースを初心者のための「ボート体験水域」、「競技レース水域」と縦に二つに分ける。そうしてボートを初めて漕ぐ市民の皆さんと、ボート競技者の競技レースを同じ水面に共存させる。そうすることで、ボートに初めて乗る皆さんに、競技ボートの迫力を、インパクトを伴って目に焼き付けてもらえるのではないか。
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水面に浮かんだ艇の上で、すぐそばをばく進するエイトを観るのは実に迫力がある。コースべり、陸から観るのとは全く違う。どうせ観てもらうのなら、競技レース、特にエイトのレベルはとことん高く、迫力のあるものにしたい。ワセダクラブ・ボートDivスタッフのその意図に国内トップチームが賛同してくれた。2004年全日本選手権エイト優勝の明治安田生命。3位のNTT東日本東京。全日本大学選手権エイト優勝の中央大学。
そして「ものは試し」で打診してみた海外チーム、それもハーバード大学から「ぜひ行きたい」あっけなく快諾。しかも現役の米国代表や、世界選手権金メダリストも擁するという。
ボートを初めて漕ぐ皆さんに本物の迫力を。そのスタッフの想いが、ワセダクラブ協賛企業・(株)日本航空の賛同を得ることで、とうとう日本国内トップチームと世界トップ級選手の対決を実現することになった。
しかも、その傍らにはボートに初めて乗る皆さんが楽しそうに浮かぶ。
こんなボートのイベントは、少なくとも国内では聞いたことがない。
そして手探りのなかで迎えた昨年の第1回大会。朝から雨模様だったにもかかわらず、約1,300名にご来場いただいた。誰でも漕げる「ボート体験会」を楽しむ市民の皆さん、そのすぐ傍らで、エイト決勝はNTT東日本東京とハーバード大学が稀に見る大接戦、NTTが0.21秒差で勝利。「とことん楽しむ」市民の皆さんと、「国内最高レベルの真剣勝負」に燃える競技者を同じ水面に共存させる試みは、主催者側の想像を超える盛り上がりをみせ、来場者には「こんなボートの大会、見たことがない」の驚きで受け止められた。さらにはFISA World Rowing.com(世界ボート連盟ホームページ)のトップ記事にも取り上げられ、この風変わりなイベントは、一夜にして世界中のボート好きの関心事となった。
あれから1年。いよいよ、その第2回大会を迎える。
今年もハーバード大はやってくる。それを迎え撃つ国内勢は、昨年の顔ぶれに、今年はこれまた国内トップチーム、東レ滋賀が新たに加わることになった。今年の全日本選手権エイト、NTT東日本東京と東レ滋賀は「同タイム2位」で準優勝を分け合った。優勝した明治安田生命を加えれば、今年のエイト国内トップスリー揃い踏みがかなうばかりか「同タイム2位」の決着の場が実現するかもしれないのである。
「ボート体験会」ではどんなことが体験できるのか。
申込みは1人から何人でも可能。4人家族なら家族揃ってひとつの艇に乗れる。受付をすませると、まず陸上(エルゴメーター)で基本動作を教わる。コーチを務めるのは、現役含む世界選手権・オリンピックの日本代表経験者たち、そして、現在国内では連戦連勝を続ける早稲田大学女子ボート部員たちである。ひととおり動作を覚えたら、いよいよ水上へ。現役の早大ボート部員たちに指導を受けながら、ナックルフォア(転覆しない安全な艇)に乗りこむ。オールのさばき方に慣れてきたころ、どの参加クルーも最後に「300mタイムトライアル」に挑戦、上位クルーは表彰されるしくみである。なお、参加者全員に大会オリジナルの参加賞が渡される。
漕ぐ距離は長すぎず、短すぎず。日ごろ身体を動かしていなくても大丈夫だ。せいぜい、秋の日に心地よい汗をかける程度であろう。
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お昼休みのエキシビジョンレースでは、ボート競技だけの枠にとどまらない、ワセダクラブならではの他競技との交流を実現させる。今年はワセダクラブ・ラグビースクール生がボートレースに挑戦する。
そして今年のエキシビジョンの目玉。これは昨年には全く思いつかなかった。つまり、この1年間の変化の証しとして楽しみなのが「ボートスクール家族対抗レース」。ボートスクールでは、この1年間で「家族そろってボート大好き」の一家がいくつも誕生した。お父さん、お母さんにふたり兄弟姉妹で1クルー。勝ち負けはさておき、とにかく楽しんで…といいたいところだが、いざ漕ぎ始めると…さて、どうなるだろう。
本部前では、豪華賞品が当たる「お楽しみ抽選会」、午後には「エリートエイト優勝クルー当てクイズ」その他当日発表の催し物もある。
競技レースでの話題をひとつ。昨年のハーバードクルーのストローク(整調)で、細身ながら一番パワフルだった選手・ジョン・ワクターは、今年8月に日本の長良川で開かれた世界選手権で米国代表(軽量級舵手なしフォア)として漕いだ。彼は現在米国の軽量級トップ4に入る選手なのである。今年も参戦に向け調整中だ。
最後に、筆者も知って驚いた昨年大会のエピソードをひとつ。
男子エリートエイト決勝で、0.21秒差の闘いを終えたNTT東日本東京とハーバードクルーが、ゴールのあと、水上で両艇を近づけて艇上で握手を交わしていたという。
そんなことができるのか。そんな光景は日本では見たことがない。見てみたかった。
11月13日、戸田オリンピックボートコース。
今年もワセダクラブだからこそ可能になる、新鮮な驚きの連続にしたい。
(敬称略)
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望月 博文(もちづき ひろふみ) |
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