■Vol.20 「見えてきた使命」
こんなことになるとは思っていなかった。
早大ボート部104年の歴史の中で、こんな光景がうまれることを誰が想像しただろう。
近頃のワセダクラブ・ボートスクールのことである。
とにかく、日曜日に早大ボート部艇庫前で繰り広げられる光景は、初めてずくめなのである。
走り出した2年前。思い出す開校前の不安「生徒は本当に集まるのか」「ナックルフォア1艇すら組めないかも」
それが今や生徒は50名。今なら笑いとばせる心配も、その時は真剣だった。
●初めてのこと、その1。
ボートスクールが始まって、早大ボート部艇庫はあらゆる年代の人々の交流の場となった。
スクール生は、下は小学3年生から、上は高校2年生。生徒たちが、早慶レガッタを漕ぐ現役ボート部員たちとじゃれ合う光景は、今や見慣れたものとなった。
スクールで教えるスタッフは現役大学生、大学院生、社会人の20代〜30代後半。それを最近、自らが漕ぐことに熱心な、60代〜70代の早大ボート部OBが、少し離れて微笑ましげに見つめている。
また今年はスクール生保護者の皆さんにもスタッフ的ワークを一部手伝って頂く。
なので「保護者コーチ」が生徒を叱る、つまり、生徒はよそのお父さんからも叱られる。今や街では絶滅の、そんな貴重な交流も生まれそうである。
●初めてのこと、その2。
出身大学の垣根を越えて、この活動に理解を示し、協力してくれる人たちが着々と増えつつある。
今年の新スタッフ、森井雄一は慶大OB(社会人1年目)。彼は昨年まで慶大エイトの主力として、早慶レガッタで早稲田を2年続けて破り、派手にガッツポーズを決めた。その彼が、いま早稲田で少年少女を教えている。
「とにかく、ボートに触れていられるのが嬉しくて」
そこに昨年の早大主将、布施太一も新スタッフに加わり「決戦隅田川」の好敵手同士が、今や文字通り「呉越同舟」仲良く協力しながら、生徒たちにその“ボート愛”を伝える姿がある。
そして関西からの関東着任ながら、ボート愛嵩じてやってきた大阪大OB(社会人1年目)、滝順二が筆者も未知の“関西ボート文化”に触れさせてくれる。
こんな多彩なスタッフに教わることのできる生徒たちがうらやましい。
●初めてのこと、その3。
ボートスクールを訪れる保護者の皆さんの中に、只ならぬボート好きが増えている。
それは漕ぐことに限らない。例えば会話の中で、こんなフレーズに出会う。
「望月コーチ、今年のワセダの新艇は、ベスポリのV1ですね。あの船型は・・・」
ベスポリとは米国のボートメーカーの社名。でも競技未経験の方の口からたやすく出るものではない。
お父さん、名だたるボートメーカーのホームページをくまなくチェック、今や筆者よりも詳しい。
しかもそれが、いかにも楽しそうなのである。まるでゴルフ好きの人が、シングルプレーヤー目指さずとも、ゴルフ談義をアイアンがどうの、ドライバーがどうのと語るような。それに近いかもしれない。
ボートにもこんな楽しみ方があっていいんだなあ。筆者は目覚めさせられた。
筆者は選手引退10年余、競技ではない「楽しむレース」に自分が参加することに、やや抵抗があった。
それが「一度だけ」と保護者の皆さんと一度レースに出たら・・・病みつきである。
なぜかといえば、とにかく「楽しい」から。今年も保護者の皆さんとひとつでも多くレースを共にしたい。
●初めてのこと、その4。
今年のボートスクール新規入学生の保護者の皆さんの中に、ボート日本代表経験者がなんと3名。ご自身の2世を最初にボートに触れさせる場として、ワセダクラブを選んでくださった。
もちろん出身大学関係なしである。中には今なお現役、一線で活躍中の方もおられる。ワセダクラブ・ボートDIVとしての運営レベル向上、ノウハウ蓄積にこの上なく心強い加入。あとは活かすも殺すも我々スタッフ次第。ますます怠惰ではいられない。
悩みや不安がないわけではない。スタッフ不足。
水上で行うボートスクール運営には、安全確保のための「目」が常に多く必要である。そのため、当DIVでは経歴不問で常時スタッフを募集している。高校時代ボート部員だが、ボート部のない順天堂大学の学生。高校時代ボート部員だが体育会には入らなかった早大生。ボート経験は無いが「早稲田スポーツ新聞会」でボート部担当だった大学院生。実にさまざまな人材が集まっている。
それでも、生徒の増加にスタッフ数が追いつかない。
そこに予期せぬ嬉しいできごと。
早大ボート部員から「手伝わせてください」との志願者が出はじめたのである。
これまでは他DIVと違い、現役部員には常に自分の練習に専念してもらってきた。これからも「各人の練習優先」の方針は変えないが、せっかくの志願。何らかの形で受け入れることは、長い目で見ればその現役部員の人生にきっと好影響を与えるはずだ。志願する現役学生が自らの練習と両立させつつ参加できる道をつくりたい。少なくともスクール生と一緒に漕いだり、一緒に食事をしたりする機会は増やしていこう。
また早大附属高ボート部員と、ボートスクール生の合同練習の構想も浮上中。
こうなったら「オール・ワセダ」で強くなろうか。
「ボートを通じて、世代や経歴に関係なく、人が集い、交流し、成長できる『場』を提供する」
目指すべき使命が、遮二無二続けるうちに見えてくるものだとは。
今シーズンも挑戦が続く。
(敬称略)
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望月 博文(もちづき ひろふみ) |
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