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Rugby football

ニュース・コラム

Dr.Tのオンラインクリニック

ラグビー選手にとって、頻繁に起こる怪我について、その対処方法とリハビリ・スケジュール等について、シリーズでお届けします。

■Vol.07 腸脛靱帯炎・鵞足炎

 暑くなってきましたね!
新入部員も加わっていよいよ本格的な練習、走りこみの季節の到来です。
今回と次回で練習を開始して間もない、今ぐらいの時期によく発生するランニング障害について2回に分けてお送りしたいと思います。

 ランニング障害とは、走ることが原因として起こる慢性障害(over use)のことを言います。主な症状は繰り返しのストレスによる筋肉や腱の炎症です。

 今回は、膝周囲のランニング障害の腸脛靱帯炎と鵞足炎についてお送りします。

腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたえん)

 腸脛靭帯炎とは膝の外側に痛みの出る、ランニング障害です。

腸脛靭帯って何?

腸脛靭帯は膝を曲げる時に(20°〜30°に膝が曲がった時)、膝関節の外側の骨とこすれることで、炎症がおこります。膝関節の外側の骨は人によって大きさが違うので、全ての人が腸脛靭帯炎になるとは限りません。

また、膝をしっかり曲げて走るスプリンターには起こりにくく、下り坂やジョギング、不整地でのランニングで起こりやすいと言われています。

腸脛靭帯炎の原因は?

常識的なことですが、空腹状態で身体の中にあるエネルギー源のグリコーゲンが枯渇してしまい、効果的なトレーニングは行なえません。つまりせっかくの努力が、時間の浪費だけになってしまうのです。

1.トレーニング内容

急激なランニング量・距離の増加
個人の能力を超えたランニング
ランニング中の急激なスピードの変化

2.筋肉・腱

筋・腱の柔軟性の低下
(大腿四頭筋・ハムストリング・股関節周囲筋)
筋力不足・筋力バランス

3.身体的素因

下腿のアライメント異常(O脚)
もともと大腿骨外側の骨が大きくこすれ易い人。
腸脛靭帯の厚い人。

4.靴

クッションの悪い靴
磨り減った靴

5.路面

不整地・硬い路面。
下り坂

6.その他

走行幅や接地時の膝の角度(曲げが不十分)

鵞足炎(がそくえん)

 鵞足炎とは腸脛靱帯とは逆の膝の内側に痛みが出るランニング障害ですが、ジャンプやターンの繰り返しでも起こります。

 鵞足とは膝のすぐ下の内側にある、縫工筋(膝を伸ばす筋肉)・薄筋・半腱様筋(膝を曲げる筋肉)がスネの骨(脛骨)に付着している部位で、付着している腱が鳥の足の形に似ていることからこのような名前が付けられています。つまり鵞足炎とは鵞足部に付着しているこれら3つの腱の炎症です。

鵞足炎の原因は?

 腸脛靱帯炎と同様に膝の繰り返しの曲げ伸ばしの際に、膝の外反や下腿の内旋が強いときに、鵞足に付着している腱が炎症をおこし、膝の内側に痛みが現れます。

 鵞足炎も大腿四頭筋・ハムストリング・股関節周囲筋など(特にハムストリング)の柔軟性の低下やX脚などの身体形態特性によるランニングによる過度のストレスなども間接的な原因として挙げられます。(身体的素因以外は腸脛靱帯炎とほぼ同様な原因です。)

腸脛靱帯炎・鵞足炎の治療方法

 走行中や走行後に痛みがあるがスピードには影響しない程度の症状の軽いときは、十分なストレッチとアイシング・交代浴が有効です。痛みのために走る距離やスピードに易経が出る場合や歩行時でも痛い場合は、ランニング(練習)を中止して安静にし、軟膏やシップを用います。もちろんストレッチ・交代浴は必須です。たいていは3〜6週くらいで軽快します。それでも痛みが軽減しない時は専門医を受診してください。膝の半月板損傷などが疑われることがあるからです。

 また、靴の踵の減り具合をチェックし、極端に外側や内側が減っている場合にはアライメント矯正(足底板)やフォーム矯正、テーピングも必要です。

腸脛靱帯炎・鵞足炎の予防方法

 ストレッチと患部のアイシング・交代浴に尽きます。この3つはスポーツにおける、セルフケアーの基本です!

■モモ前(大腿四頭筋)のストレッチ


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■ハムストリングのストレッチ


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■臀部のストレッチ


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■腸脛靭帯のストレッチ-(1)

足を交差し、前屈をして腸脛靱帯を伸ばします。


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■腸脛靭帯のストレッチ-(2)

横向きに寝て、腰を浮かし写真のように腸脛靱帯を伸ばします。


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■腸脛靭帯のストレッチ-(3)

段差に横向きに寝て、上側の足を下にたらし、腸脛靱帯を伸ばします。


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■腸脛靭帯のストレッチ-(4)

写真のように後方で脚を交差し、腸脛靱帯を伸ばします。


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■鵞足部へのストレッチ-(1)

ストレッチをする脚の膝を伸ばして、ハムストリングを伸ばします。


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■鵞足部へのストレッチ-(2)

仰向けに寝て、モモを胸のほうに引きつけてハムストリングを伸ばします。


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腸脛靱帯炎・鵞足炎のリハビリメニュー

 痛みが消失したら、徐々に運動強度を高めていきます。痛みがなく動けるからといって急に走る距離を長くしたり、スピードを速くすると再発する危険性が高くなるので、注意が必要です。痛みが出た時の状況を思い出し、徐々にベストな状態へ運動強度を上げていきましょう。

 始めはウォーキングからはじめ、徐々にスピードを上げてジョギング、1500m走、400m走、100m走と痛みがなければこのように運動強度を上げていきます。

 走れないから、自転車トレーニングならできそうな気になりますが、自転車のペダリング動作が膝の曲げの伸ばしを繰り返し行って、腸脛靱帯などの膝周囲にストレスをかけてしまうので絶対にしてはいけません。

 また、脚の筋肉の柔軟性がない状態でスポーツ活動に復帰しても、再発や他の怪我をする危険性が高くなるので、ストレッチがとても大切になってきます。

 X脚やO脚に対するアライメン矯正や足底板療法も再発予防に効果的ですので、専門医に相談してみると良いと思います。

効果的なテーピング

腸脛靱帯炎、鵞足炎に効果的なテーピングを紹介します。


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■腸脛靱帯炎キネシオテーピング

脛骨外顆(膝関節のすぐ下の外側)から2本腸脛靱帯に沿って、少しキネシオテープを引っ張りながら貼ります。


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■鵞足炎キネシオテーピング

鵞足部(膝関節のすぐ下の内側)から1本は縫工筋に沿って、1本は薄筋に沿って少しキネシオテープを引っ張りながら張ります。


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■補足

腸脛靱帯炎・鵞足炎に対するアイシングはアイスパックによる局所的なアイシングだけでなく、アイスバケツなどで脚全体のアイシングを行って、脚の筋肉の疲労を抜くことが大切になります。

   

参考文献

1.

「ランニング障害」日本臨床スポーツ医学会学術委員会編
福林 徹ら;106-117、2003

2.

「スポーツ外傷学 IV 下肢」
黒沢 尚ら;232-235、2001

■Dr.Tとは・・・?
この企画の監修を務めるドクター。某W大学ラグビー部で長年チームドクターを務める。日本体育協会公認スポーツドクターでもある。外見はプロップコーチだが実は名医。そう、見掛けによらず、ものすごく器用。縫合なんて超芸術品。そして、何よりも注射をすることをこよなく愛するが、注射をされることは大嫌いなもうすぐ二回目の成人式。未だ独身。

■ワセダメディカルチームとは・・・?
チームドクターであるDr.Tを中心に鍼灸師のプロのトレーナー1人、リハビリ担当のPT(理学療法士)2人、学生トレーナー6人から成るチーム。いつも選手の一番そばにいて、サポートを行なっているスタッフたちです。

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お問い合わせ先 rugbycolum@wasedaclub.com