■スタンドから
Vol.39「馬のドーピング問題」
対日体大戦。なんと100−0という見事なスコアで快勝した。100得点はともかくとして3試合連続無失点というのはすばらしい。この試合、後半は反則ゼロ。エリア・マネジメントとともに、レフェリーとのコミュニケーションがしっかりとできている証拠だろうか。このまま、油断することなく突き進んでいただきたいものである。
対照的に、第二試合の関東学院大対流通経済大はストレスの溜まる試合だった。予想に反して関東学院が攻めあぐねていたこともあるが、何度も何度もスクラムが崩れ、そのたびにやり直すという繰り返しもストレスの原因だったように思う。たしか、春、ワセダとやったときもスクラムに関しては同様だったように記憶している。技術的なことはよくわからないのだが、観ている側としてはなんとかならないものかと感じてしまう(スクラムを観たくないと言っているのではない。スクラムが崩れるところばかり観るのはつらいということだ)。もちろん、第一列で何度も相手にぶち当たった挙句、地面に叩きつけられ、さらに反則を取られたのではたまらんという選手の気持ちもわかるつもりではいるのだが……。
春口監督は試合後のインタビューで「お客さんに申し訳ない」とおっしゃった。プレーに関しての発言だとは思うが、私にはスクラムの安定への注文とも受け取れた。それらすべてをひっくるめて出た言葉なのだろう。
それにしても、「お客さんに申し訳ない」という発言はすばらしい。ライバルとはいえ「お客」としては思わず応援したくなってしまうではないか。「勝利」のためでなく、ましてや「金」のためでなく、「お客さん」のためにプレーする。こういうスポーツ指導者がいろいろな競技で増えていってほしいと思わず願ってしまう(スポーツだけではないか。我々だって文章を書くときに「読者」に楽しんでもらおうと思わなければいけないはずだ)。
さて話は変わるが、競馬界が騒がしい。ディープインパクトである。
「知らん」というかたのためにちょっと長くなるかもしれないが、説明しておこう(「読者」のためにと言ったそばから「知らん」ではまずい……)。
ディープインパクト(馬の名前です)は史上2頭めの「無敗の三冠馬」である。「三冠」というのはクラシックと呼ばれる5つのレースから牝馬(メス馬)限定の2つを除いた「皐月賞」「日本ダービー」「菊花賞」のことで、この3つを全て勝った馬が「三冠馬」と呼ばれる。「三冠馬」としては6頭めなのだが、それを無敗のまま成し遂げたのは1984年のシンボリルドルフ以来、2頭めだ(「三冠」達成時点で無敗ということ。ディープインパクトは三冠達成後に有馬記念で2着に敗れている)。
ちなみに、クラシックは3歳の馬しか出られないので、勝つチャンスは一生に一度しかない。天皇賞、有馬記念、ジャパンカップなど大きなレースは他にもたくさんあるが、これらは翌年の再チャレンジが可能である。そういう意味でも「三冠」の重みは格別なのである。
21年ぶりに「無敗の三冠馬」となったディープインパクトの登場で、競馬人気に久々に火がついた。鞍上も競馬界のプリンス武豊騎手と来ている。このところ低迷していた競馬人気を一気に活気付けたのがディープインパクトだった。
そのディープインパクトが、10月初めにフランスの大レース「凱旋門賞」に挑戦した。日本の馬でこのレースを勝った馬はいない(僅差の2着はいるが)。だが、ディープインパクトならやってくれるのではないかとの期待が高まり、当日のオッズ(配当倍率)でも一番人気となっていた。
結果は惜しくも3着。敗因についてはいろいろと言われた。日本の馬場と違って柔らかかったからとか、足慣らしのレースに出ないでぶっつけ本番だったからとか、天才・武豊でも焦って騎乗ミスした(結果的には仕掛けが早かったと言えなくもないのだが、筆者は「ミス」とまでは言いすぎだと思う)などさまざまだ。
調教師さんは「来年もまた挑戦したい」(凱旋門賞はクラシックではないので、再チャレンジが可能)というコメントを出し、来年も現役続行かと言われたが、帰国後、突然、今年いっぱいでの「引退」が発表された。サラブレッドは血統重視で、オス馬には種付けという仕事もあるため、ケガしたり、戦績に傷がつく前に引退するというのもわからなくはないのだが、早すぎる引退宣言を残念がるファンも多かったはずだ。
それにしても、種馬のシンジケート(要するに種付け権利を何人かが出資金を出し合って分け合う組合制度)が51億円で組まれたなんて聞くと、「なあんだ、結局、金ですか」と思ってしまうのも無理なかろう。フランスで足慣らしのレースに出なかったのも、賞金の高い日本のレースにギリギリまで出たかったからかなどと勘ぐりたくもなってしまう。
レース結果と引退を残念に思っていると、先日、もっと残念な、とんでもない事実が発覚した。凱旋門賞後の検査の結果、ディープインパクトの体内から禁止薬物(ただし、日本では禁止されていない)が出たというのである。馬がドーピング検査で引っかかってしまったのだ。
詳細な事実関係は調査中ということなのでまだわからないが、禁止されている薬物を投与してレースに出てしまったことは間違いないらしい。3着という成績が取り消され、失格になる可能性も高いようだ。
フランスではフランスの獣医しか処方箋を出せないため、競馬ミステリー作家ディック・フランシスばりの陰謀説や、フランス語を理解できなかったスタッフの薬物投与期間のミス説、日本では禁止されていないためそもそもこの薬物に関しての危機管理が甘かった説などなど、憶測が憶測を呼んでいる。
フランス側の説明では、フランス人の獣医が期間を指定して処方したのに、日本のスタッフがその期間を過ぎても投与したためと説明しているようだが、名指しされた獣医がそれを否定していたりと、まさに謎だらけである。
謎が深まる一因は、関係者が一様に「調査中」を理由に口を閉ざしていることにもあろう。うかつなことは言えないというのもわかるが、ファンにしてみれば蚊帳の外に置かれている感は否めない。せめて、日本側の主張だけでも知ることはできないのかと思ってしまう。やましいことがないのであれば、堂々と主張すればいいはずだ。
そう、ここにも「お客さん」の視点が希薄なのではないかと思ってしまうのだ。レースの使い方もそう、早すぎる引退もそう、そして情報の遮断もそう、すべてお客さん=ファン不在という印象がとても強いのだ。
今回のことがせっかく盛り上がった競馬人気に水を差す、いや、冷や水をぶちまける結果にならなければいいのだがと願っている。そして、スポーツ界、いやもっと広く、ビジネス等においても、本当の意味でお客さん中心主義になってくれることを願っている。
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木村俊太(きむらしゅんた) |
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