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ニュース・コラム

楕円球コラム 〜Extra〜

■プロップマガジンW
 Vol.4「清宮監督はプロップだった!?」(後編)

 今年もあっという間に3月。……。

 という書き出しが、vol.3でありまして、vol.4は4月も終わり頃、と。
 いや〜。
 vol.ナンバーと発行月が同じっていうのはいいとして、こりゃちょっと申し訳ないです。読者のみなさま、および関係各位に深くお詫び申し上げます。

 ということで、清宮監督がプロップだった、というお話の続きです。

――ショックでしたか?

 ショックですよ、そりゃ(笑)。ナンバー8がこれくらい(左の手のひらをテーブルの上50cmの高さに掲げる)だとしたら、プロップなんてこのくらい(右の手のひらを動揺に10cm)ですからね、当時のボクの意識の中では(笑)。

――どのくらいの期間、プロップだったんですか

 夏合宿が始まるまでですから、5月から7月までの3ヶ月ぐらいですね。
 でね、早稲田のプロップって、夏合宿ではクビの後ろにテーピングするんですよ。擦れないように、人工皮膚っていうんですけど(笑)。
 それを合宿中に取らない、取ったらまた皮膚がめくれるんで。張りっぱなしで風呂にも入るんです。
 それを1年のときに見てきましたからね、
「あーオレも人工皮膚で2週間過ごすのか」
 って暗くなりましたよね。
 でもしょうがないですよね、ポジション変わったからってラグビーやめられないですからね。

――やめようとは思わなかったんですか?

 腹くくって……いや、諦めてました(笑)。大阪に帰ったときも、高校の合宿に行って
「オレ、プロップなんだよ〜」
 って、みんなにぶわーっていって(笑)、先生にも
「プロップになったんですわ」
って(笑、この笑いは諦めの笑い、あるいは自嘲を自演)言ってたんですね。

 で、合宿上がって、メンバーボードって発表されるんですよ。それを見てみると、ボク、合宿入ったときにはCチームのプロップだったんですが、ボードを見るとAチームの8番になってて。

――おお! でも、それはなんでなんでしょう

 それは監督が、ナンバー8は清宮だ、って最初から決めてて、リハビリとしてプロップを経験させようと、どうやらしてたらしいんですよ。プロップの練習、ヒザにくるじゃないですか。
 だから、ボクは3ヶ月間ずーっと、そうやってプロップの練習でリハビリをしていたってことになりますね。あとは突っ込みとね、カメとかね、やってましたよ。

――カメって何ですか?

 四つんばいになって、ずーーとこう、やっていくんですよ。そういう練習があるんですよ、早稲田は。スクラムの強化のために。

――四つんばいになってどのくらい歩くんですか?

 グラウンド一往復とかね。

――そんときには、なんてこったい、って思いました?

 なんてこったいですよ(笑)。だってボールはさわらないしね、カメ(笑)、にしてもプロップ練習ってまったくボールと関係ないでしょ(笑)。

――要するに、フォワードの一番派手なところから一番地味なところに代わったということですね

 そうですね。

――でも、それを3ヶ月経験なさることで、ご自身の何だか精神的に変わりましたか? 例えばラグビー観とか。

 それは変わりましたね。やっぱり、プロップって偉いなと。
 エライじゃないですか。あれ(スクラム)をやったあとに走っていってラックに入ったりモールに入ったりするわけですから。

――それまではプロップはこう(底辺)だったのも……

 それは変わらない(笑)。
 だけど、プロップの辛さもわかったし、偉さもわかった。
 まあでも、ボクは偉さはわかったけど、相変わらず後ろからプロップたちをド突いたりするタイプのフランカーなりナンバー8でしたね。それは変わらなかった(笑)。

――でも、ド突くけれども、気持ちは変わりましたか? そこに愛情が加わったり憐愍があったり……。

 いやいやいや、変わりません(笑)。

――すまんな〜、という気持ちぐらいは……

 いやいやいや(笑)。

――そんな……

 ちゃんとやってくれないと困るんです、プロップが。ちゃんとやってくれないと困るポジションなんです。
 あそこがよくないと、いくらバックローがよくてもダメなわけですよ。
 要は、8人の象徴なわけですよ。フォワードの強さをはかるのはスクラムしかないんですよ。
 例えば、AチームとBチームに分かれて練習するでしょ。Aチームは絶対にスクラムで勝たないといけないんです。1回たりともスクラムを押されてはいけないんです。そうしないとAとBに分かれる意味がない。ボクはずっとそんな考えでやってきてます。
 だから、Aチームが押されたりすると……

――お仕置き?

 しますね(笑)。ボクの場合、それは同級生であろうと先輩であろうと関係ないですね。押されたりしたら、先輩にもガーいいますね。
 サントリーでも、ボクが入って最初の何年かは押されるわけですよ。下手すると学生にも押されたりするんですね。そうするとやっぱやってましたね。中村直人(元日本代表のプロップ、現サントリーサンゴリアスFWコーチ)なんか、僕からガンガン言われてましたね(笑)。

――そのときは中村直人は弱かったんですか?

 直人はね、強くなったのはね、4年目ぐらいからかな。あいつは23歳で入っているから、27歳ぐらいからかな。
 でね、あいつは社会人になって試合したときに、相手チームにいた後輩から、
「おっ、今日のスクラムはいただきます」
 って、スクラム組むときに言われてましたからね。後輩なのに。

 ーーくぅぅぅ(中村直人の代わりに泣く上井草タタミ)。
 はははは(笑)。

==== ここで、中村直人のコメント =====

 えっ! そんなことありましたっけ?
 あ〜、でもね、確かにボク、普通のプロップやったんですよ、最初は。
 スクラムつよーなったのはいつごろからでしたかねー。
 スクラムってね、
 「あ、これや!」
 っていうツボみたいなものがわかるときが来るんです。
 「こう組んで、こう押せばええんや!」
 ってね。これは多分、若いうちはわからんのと違いますかね。

==== 以下、清宮氏にもどる=========

――逆にいえば、プロップというのはそれだけ伸びシロがあるということですか?

 伸びシロがありますね。

――バックスに比べたら?

 バックスは、多少の判断力は伸びますけど、そんなには学生も社会人も変わらないですよ。それに比べたら、フォワードは社会人になって伸びていくし、中でもプロップは伸びますね。

――化ける可能性は?

  プロップにはありますね。

(おわり)

上井草タタミ(かみいぐさたたみ)=別名:府中四六蔵)
1966年長崎県佐世保市生まれ。長崎海星高校、早稲田大学卒。高校入学から大学卒業まで11年もかけた慎重派。学生時代からフリーライターとして週刊誌や月刊誌で活動を始める。専門は日本の政治と経済と社会と文化。
サントリー・サンゴリアスのHPで「プロップマガジン」を執筆。
「仕事が入った」と家族に偽って土曜日日曜日祝日その他にラグビーを観戦し執筆するのもそろそろ限界かな、と最近感じている本人と騙されてるふりをしている家族(主に妻)である。

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